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豆知識

「フィロキセラ」と「接木」のお話。 ~ワイン消滅の危機を救った人類の知恵

ワインの天敵「フィロキセラ」

「フィロキセラ」をご存知でしょうか?

ワインを少しでも勉強したことがある方にとってはあまりに有名ですが、そうでない方にとっては全く馴染みのないこのカタカナ文字。
フィロキセラの和名は、「ブドウネアブラムシ(葡萄根油虫)」。
そう、フィロキセラとはその名の通り葡萄の樹の根っこに寄生して、葡萄の樹を腐らせてしまいう、ワインの天敵とも言える恐るべき害虫の名前です。
この害虫の威力は凄まじく、一時は世界中の葡萄畑を壊滅の危機に追いやってしまったほど。

今回は、ワインの天敵であるこの「フィロキセラ」のお話をしたいと思います。

フィロキセラはどこからやってきた?

2891(画像引用:Wikipediaより)

フィロキセラはもともとは北アメリカに生息していました。
葡萄の樹は世界に大きく欧州・中東、北米、アジアの3系種あると言われており、北米系種の葡萄の樹はフィロキセラの耐性があったため、特に大きな被害は確認できませんでした。

しかし、世界の交易が活発になるとアメリカの葡萄の苗木をフランスに持ち込んで、自分の葡萄畑に植えた生産者がいました。
すると、みるみるうちに葡萄が枯れてしまい、畑が壊滅状態になってしまいます。
そう、アメリカから持ち込んだ苗木にフィロキセラが付着していたのです。

ヨーロッパ系種の葡萄であるヴィティス・ヴィニフェラ種はフィロキセラの耐性がありませんでした。
そのフィロキセラの被害が最初に確認されたのが1863年。ワインの歴史においてあまりに重要な事件のため、ソムリエ試験にこの年を覚えずに臨む人はいないほど、ワイン史において重要な出来事です。


また、フィロキセラは繁殖力も極めて高かったため、被害は瞬く間にその後10年間でフランス全土に広がってしまいます。
その結果、フランスのワイン産業は壊滅の危機に陥るまでに至ってしまいます。
フランス政府は賞金をかけてまで、フィロキセラ対策のアイディアを募りました。

この時に仕事を失ったボルドーの生産者がスペインのリオハ等に渡り、スペインにワイン作りのノウハウを伝授し、スペインワインの品質が高まったという良い作用もありました。
しかし、被害はフランスだけに留まらず、そんな移住先のスペインやイタリア、ポルトガルなど、フィロキセラはヨーロッパ全土に広がってしまいます。

単純に、フィロキセラの耐性のあるアメリカ系種の葡萄でワインを作ればいいのでは?との意見も当然ありました。
しかし、繊細で美味しいワインを生み出す葡萄は、どうしてもヨーロッパ種であるヴィティス・ヴィニフェラ種でなければ難しかったのです。
実際に、現在ではヨーロッパ以外の大陸でもワインは作られていますが、ほぼ全てがヴィティス・ヴィニフェラ種というヨーロッパ系種の葡萄を植えてワインを作っています。

「接木」の誕生

2906こうした試行錯誤の末に生まれたフィロキセラの対策が、「接木」という技術です。

フィロキセラは葡萄の「根」のみに寄生します。
つまり、根っこだけを耐性のある北米系種にして、実を付ける上半分だけをヨーロッパ系種にすればよいのでは?という単純な発想でした。
「そんなことできるの!?」と思ってしまいますが、植物は苗木の段階などで切断した植物同士を密接させることで、異なる植物を1つに繋げることができるのです。

そして、この方法が功を奏します。
下半分を北米系種にしたことで葡萄は腐らず、上半分をヨーロッパ系種にしたことで繊細な味わいを表現できる葡萄の実を付けることに成功したのです。
接木をした葡萄よりも自根の葡萄の方が、やはり味わいが良いという意見もありますが、現実的にはこの接木がベストの解決策だったのです。


ワインの危機は、このように「接木」の技術によって乗り越えることができました。
従って、ワインを生み出す世界中の葡萄の樹のほとんどが、下半分と上半分で異なる葡萄の樹からできているということは、一般の方々にはあまり知られていない驚きの事実です。

なお、フィロキセラは世界中に拡散してしまいましたから、この話は世界共通です。
(フィロキセラがそもそも生息していたアメリカでも、ヨーロッパ系種の葡萄でワインを作っているため、フィロキセラの被害を受けています)

フィロキセラの被害を受けていない産地

しかし、世界には、このフィロキセラの被害を全く受けていない産地がいくつかあります。
それは、オーストラリアのバロッサ・ヴァレーなど、他の産地と隔離されていた産地ですが、中には一国まるまるフィロキセラの被害を受けていない国があるのをご存知でしょうか。

その国は、チリです。
チリは、西と南に太平洋、北にアタカマ砂漠、東にアンデス山脈と、完全に隔離された地形であったため、現在においてもフィロキセラの被害を受けておらず、ほぼ全てが接木がされていない自根の葡萄なのです。

チリというと、どうしてもカジュアル、お手頃、といったイメージがついて回る産地です。
しかし、雨量が少ない気候や、昼夜の寒暖差に加えて、ほぼ全ての葡萄が自根であるなど、ワインの産地としてはかなりの好条件がそろっている産地でもあるのです。

実際にチリワインと言っても、フランスやアメリカ等で成功をした生産者が、新しいワイン造りに挑戦しようとチリに新たにワイナリーを作っている話も多くあります。
フランス等では法律でワインの作り方が厳格に定められており、それは即ち新しいワイン造りのチャレンジがしにくい環境でもあるとも言えます。
そのため、そういった新しいワイン造りに挑戦をしたい生産者にとっては、環境に恵まれたチリは最適な産地でもあるのです。

高品質化を目指すチリワインの挑戦

2881しかし、こんな環境に恵まれたチリワインにも、大きな課題があります。
それは、先に述べた「カジュアル」「お手頃」といったイメージです。

チリの生産者の中には、そんなカジュアルなイメージを打ち破ろうと、高品質化への挑戦を続ける生産者も増えています。
その代表的なワインとして、チリ最高のプレミアムワインと言われる「セーニャ」というワインがあります。

「セーニャ」はボルドーで醸造を学んだエドゥアルド・チャドウィック氏が1995年に世界に通用するプレミアムワインを作ることを志に作ったワインです。

長年の努力の結果、去年には有名なワインジャーナリストであるジェームス・サックリング氏が発表した「世界のワインTOP100」において、98点というTOP10に名を連ねるほどの評価を得るまでに至りました。

そんなセーニャの創設20周年の記念イベントが東京でも開催され、日本においてもチリワインのイメージ向上のための努力を続けています。

増え続けるチリワインの輸入量

2905以上のような生産者の努力もあり、日本においてもチリワインのイメージは確実に向上してきています。

実際に日本のチリワインの輸入量は増え続け、日本の輸入量はイタリアを抜いて2位。
2014年においては、月別では1月と5月は、フランスを上回って首位になるほどに成長してきているのです。

これも全て、チリワインの価値を高めようと努力を続ける生産者の努力の結実であると思います。

終わりに

さて、フィロキセラのお話からチリワインの挑戦までお話をしてきました。
ワインの面白さは、その長い歴史故にこのようなストーリーがあり、多種多様であるところだと思います。

日本では、ワインと聞くとついフランスワインを思い浮かべてしまいますが、世界にはまだまだ飲んだことのないワインがたくさんあります。

せっかく多様なワインと触れることができる現代、偏見を持たずに様々な産地のワインを楽しみたいですね。


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上村謙輔

上村謙輔

(社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。 「ワインをもっと多くの人に楽しんでほしい!」「ワインの魅力をもっと知ってもらいたい!」という強い思いのもと、日本のワイン市場を拡大させるための活動を行っています。

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