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豆知識

シュール・リーを深堀り!

           
シュール・リー。
ロワールのナント地方の「ミュスカデ」や山梨県の「甲州」など、さまざまなワインに用いられている熟成法のひとつです。

「シュール・リーのワインが好き」という方も少なくないと思いますが、そもそもシュール・リーが採用されたワインは、そうでないワインと何がどう違うのでしょうか。

ここでは、少し詳しくシュール・リー製法による効果について解説していきたいと思います。
             
               

シュール・リーとは?

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シュール・リーは、フランス語で“Sur Lie”と書きます。

Sur(上に)、Lie(澱<オリ>)という意味ですので、シュール・リーは「澱<オリ>の上」という意味のワイン用語になります。

一般的な白ワインは、発酵後に澱引きが行われますが、シュール・リーはその澱引きを行わずに、澱の上で熟成させるため、酵母由来の風味や旨味をワインに与えることができると言われています。

爽やかですっきりした飲み心地に、ほのかな酵母の風味。

シュール・リー製法を経たワインが好き、という方が多いのもうなづけます。
               
               

シュール・リー中、ワインに何が起こっているのか?

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さて、シュール・リーについて一般的な解説をしましたが、そもそも澱と接触している期間、ワインにどんなことが起きているのでしょうか。

シュール・リーは、基本的に樽内で行われますが(ステンレスタンク発酵後、樽にうつすこともあります)、澱の大部分は発酵を終えた酵母の菌体です。

この菌体から、アミノ酸やコロイド状のマンノプロテインなどの多糖類が発生し、それがワインにさまざまな影響を与えます。

また、シュール・リーを経たワインには微発泡をともなうものが多く見受けられますが、発酵を終えきっていない酵母が再発酵を始めるため、炭酸ガスが発生し、それがワインに溶解したまま瓶詰めされることが理由です。

しかし、ここでひとつ疑問が浮かんできます。

“シュール・リーは、酵母由来の旨味は風味をワインに与えるため。さらに、樽内熟成。コクを感じはするが、樽熟成らしい重たさを感じさせるワインではなく、なぜ飲み心地の良い、爽やかな風味に仕上がるのか?”

実は、ここにはシュール・リーによって発生する多糖類が関係していたのです。
              
              

ポリフェノールを吸着!

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前述したように、シュール・リーによって、発酵を終えた酵母の菌体からアミノ酸やコロイド状のマンノプロテインなどの多糖類が発生し、ワインの総窒素、アミノ酸及び脂肪酸含量が増加します。

これらがワインの香味は風味に影響を与えるわけですが、特に注目したいのが、※マンノプロテインなどの多糖類。

※マンノプロテインは、1901年にSALKOWSKIによって“酵母ゴム”と名付けられた多糖類。澱との接触中、ワイン中のタンパク質が、プロテアーゼという酵素でアミノ酸に分解され、その後にβ(1→3)グルカナーゼやプロテアーゼによるグルカンの加水分解によってマンノプロテインが増加します。

さまざまな研究によると、こういった多糖類はタンニンと結合することが知られており、シュール・リーを行うことで、多糖類が樽から溶出する樽由来のポリフェノールなどを吸着すると考えられています。

ポリフェノールの中でも、タンニンは私たちの口腔内に存在する高プロリンタンパク質と高ヒスチジンタンパク質と結合し、収斂味を感じさせます(渋みを味として感じるという意見もあり、まだ議論中だとか)。

シュール・リーによって増大したマンノプロテインなどの多糖類がポリフェノールと複合体を形成した結果、口内でのタンニンの攻撃性が和らぎ、新鮮で爽やかな飲み心地になるのでは、と考えられているわけです。

酵母由来の旨味などでワインにコクが与えられてはいるものの、フレッシュな印象に仕上がるのは、ひとつこういった理由があるからでしょう。
               
                 

色や香りは?

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シュール・リーを経た白ワインの場合、多糖類がポリフェノールを吸着するということですので、一般的な樽熟成よりも色が淡くなることがわかります(白ワインが褐色化するのは、ワイン中のポリフェノール量が関連しているため)。

そして香りについてですが、一般的に考えて澱と接触させ続ければ、その部分のワインは還元的になるため、還元性イオウ化合物による独特の還元臭が発生します。

しかし、シュール・リーは、澱を撹拌する、“バトナージュ”が行われますので、ワイン液中の酸化還元電位が均一化され、発生した還元性イオウ化合物が減少します。

さらに、酸化的熟成である樽熟成、僅かながら溶出する没食子酸のよる反応で還元性イオウ化合物が減少しているのではないか、という報告もあります。
ちなみに、酵母の菌体から発せられるアミノ酸も、ワイン中の他のフレーバー成分の前駆体となり、新たなフレーバー成分を生み出します。

特にソーヴィニヨン・ブランの場合、その品種特性香も12ヶ月程度のシュール・リー貯蔵によって発生するとも言われているようです。

さて、シュール・リーを経たワインの香りを、“フレッシュな柑橘の香り”と表現することも多いようですが、これは揮発性チオールが関連していると考えられています。

前述した、ソーヴィニヨン・ブランのあの香りは、3MHや3MHA、4MMPと呼ばれる揮発性チオールが関連していますが、これはある意味での還元臭でもあります。
              
               

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また、甲州にもこれらの香りを出すポテンシャルがある、ということは皆さんも良くご存知だと思います。(甲州きいろ香)

これら揮発性チオールの量が程よい場合、グレープフルーツやパッションフルーツといった香りをもたらしますが、量が多過ぎると不快な印象の香りとなってしまいます。

この香りについてはスキンコンタクトや酵母の種類がポイントになるのですが、前述した効果が期待されているシュール・リーによって、より香りのバランスが良くなるのかもしれません。
              
              

シュール・リーは面白い

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ここでは、シュール・リー製法によってワインに何が起こったのか、という観点からお伝えしました。

何となくこの製法が謎だった…という方は少し参考になったのではないでしょうか。

ちなみに、シュール・リーはミュスカデや甲州だけでなく、一部のソーヴィニヨン・ブランや、マロラクティック発酵を行うワインの場合はほとんど行われているので、この二つだけが特別なわけではなさそうです。

ワインは、ひとつひとつの製法に深い意味があり、探求しだすとキリがありません。とはいえ、それもワインの面白さのひとつ。

ぜひ、今後もいろいろと深堀りしていきたいと思います。
             
             

参考

ワイン中の多糖類の起源 とその役割 - 棚橋博史

ワイン中の単紘オリゴ輝、および多構成分 - 山梨大学

フランスのワイン醸造学 (I) - 後藤奈美

ワインの科学 - 清水健一

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