土壌は「水はけと保水性」が最も重要!?|カーヴ(Cave) -ワインがもっと楽しくなる!日本最大級のワインのレビューサイト

豆知識

土壌は「水はけと保水性」が最も重要!?

              
ワインを語る上で欠かすことができない要因のひとつが、土壌。

ワイン業界の方はもちろん、ソムリエ資格の保有者(または勉強中)やワイン愛好家であれば、石灰質とか粘土質、花崗岩など、土壌組成について知らない人はいないでしょう。

本来、最低限の知識(粘土質土壌にはメルロ、石灰質土壌にはピノやシャルドネなど…)があれば特に問題はないのですが、なかにはより一歩進んで土壌を理解したいという方もいるはずです。
とはいえ、土壌はワイン研究の中でも奥深く、世界中で注目され続けられている分野。まだまだ分かっていないことも多くあるようです。

そこでカーヴコラムでは、この土壌について理解を深めるために、少しずつ分かっていることをまとめていきたいと思っています。

まずはワイン用ブドウ栽培における基本的な情報として、“土壌の水はけや保水性”について解説していきます。

ぜひ、参考にしてみてください。
              
              

ブドウ栽培における土壌の重要性とは?

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そもそも“土壌”とはいったい何なのでしょうか。

土壌が生成される定義としては、『土のもととなる母材(または母岩)に生物が作用し、さらにそれらの遺体が腐植となって加わるなど生物作用が加わって作られたもの』とされているようです。

礫から砂利、砂、細砂、粘土へと風化母岩が風化作用によって粉砕されると母材(2次鉱物)になり、さらに浸食などによる風化、腐食など生物の関与によって土壌ができあがります。

少々ややこしいですが、例えば砂やシルト、粘土などの粒子が混じり合ったものに有機物(腐植土)が合わさったものが土壌となる、と覚えておくとよいでしょう。
                
                

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さて、ワインにおいては、粘土質や石灰質、シスト、スレート、花崗岩、玄武岩など、さまざまな名前の地質が出てきますが、どの土壌性であっても重要なのが、“水はけ”と言われています。

土壌成分がブドウの生育にとって大切なことは間違いないのですが、土壌の成分とブドウやワインの成分には明確な関連性は見いだされていない、というのが研究者たちの共通認識のようです(多量栄養素の極端な枯渇、微生物の活動がほとんど無いなどは別)。

ちなみに、土壌由来の風味というと石灰質土壌由来の「ミネラリティ」が有名です。

以前、『ワインの科学』の著者である清水健一さんにそれについて聞いたインタビュー(※過去のコラムはこちら)でも、「ミネラル感は石灰質土壌というイメージから連想しているだけ」という回答をもらっています。

研究者たちの意見は土壌の化学成分ではなく、なぜ“水はけ”が重要と言っているのでしょうか。
               
                  

有名なジェラール・セガンの研究

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研究者らが“水はけ”の重要性に目を向けるきっかけとなった、と言っても過言ではない報告が、1980年代にボルドーのメドック地区で複数の土壌の研究を行ったジェラール・セガン氏の研究です。

この研究では、最高ランクのブドウ畑に小石や有機質、リン酸、カリウム含有量が多く、窒素量は少ないという特徴はあったものの、ワインの品質と土壌組成との相関関係を見出すことはできませんでした。

しかし、畑の土壌水分を測定したところ、最高ランクのブドウ畑はブドウの根が深く張ることで栄養を補っているなど、畑の土壌の水分状態(ブドウの水分ストレス、乾燥ストレス)がワインの特徴や品質において重要だったことを明らかにしたのです(※)。

※水分ストレス、乾燥ストレスによって、新梢の成長が抑えられ、実が小さくなりアントシアニン量やフェノール量が増え、収量も減るので品質の高い実ができるという見解。一般的に、ワイン用ブドウは雨量の多い場所より乾燥地帯、肥沃な大地より痩せた土地が良いと言われている。


また、最高ランクのブドウ畑は水はけの良さに加えて、冬場に地下水位が高いものの、夏場になると地下水位が下がるため、乾燥ストレスをブドウ樹に与えられると報告されています。

このセガン氏の研究の後、別でボルドー地方で作られた32年分のワインを調べるという研究が行われたのですが、そこでもワインの品質とブドウの水ストレスに相関関係が明らかにされています。

そして、同研究でもブドウの成長期の平均気温との相関関係は認められなかったということで、これもまた興味深い結果となっています。
              
                

サンテテミリオンでの研究

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また、ボルドーのサンテミリオン地区でも、礫質と砂質、粘土質の土壌を5年間にわたって調査された研究も注目されています。

乾燥ストレスがかかる土壌、さらにヴィンテージほど新梢の生長が少なく、ベレゾンが早く、果実の成熟速度が早かった。また、糖度、アントシアニン量が高いだけでなく、果粒重、酸度、リンゴ酸が低いことがわかったようです。

さらに砂質の畑は地下水位が高いため乾燥ストレスが弱く、礫質と粘土質の方の場合は乾燥ストレスは強かった、という報告です。砂質は水はけが良い印象ですが、保水性に難アリ…という結果が興味深いところです。

こういった研究結果も、ほど良い水はけの良さや保水性がブドウの品質に重要であることを裏付ける、ひとつの報告なのではないでしょうか。
                   
                    

シャトー・ペトリュスの土壌

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水はけの良さと保水性こそが、ワイン用ブドウ栽培における重要性である。

こういった意見が土壌における重要性の中心とされているのは、これらの研究報告などによる影響が大きい可能性があります。

そして、この条件を裏付ける存在が、あの「シャトー・ペトリュス」です。

ボルドーと言えば粘土質土壌で有名ですが、粘土といってもその種類はさまざま存在しており、種類によって膨張しやすかったり、そうでなかったり「陽イオン交換容量(CEC)」に違いがあるなど、案外複雑です(土壌を探求するなら、粘土の研究をぜひしてほしいです)。
               
                

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さて、シャトー・ペトリュスの自社畑の土壌なのですが、膨張性と収縮性が高く、陽イオン交換能力も高いスメクタイト粘土(村内でもっとも多い)であり、それがメルロ種の品質を高める要因として知られています。

スメクタイト粘土は雨が降ると土壌の中の孔を防ぎ、結果的に酸欠状態になるためブドウ樹の根の成長や働きが止まり、常に水分ストレスをブドウ樹に与えます。
しかし、乾燥するとひび割れるため根が奥深く伸びるため栄養素が不足しすぎることもありません。

粘土質というと、水分の保持能力が高い反面、ブドウ樹の根が水分を吸い過ぎてしまうイメージですが、密度が高いためブドウ樹が根を伸ばしにくく、結果的に水分ストレスがかかるということなのです。

水はけや土壌の健全性を考えると、土壌中に酸素が行き渡ることが重要ですが、根が成長して養分を摂取し過ぎることも問題になるため、ほど良く乾燥ストレスがブドウ樹にかかり、実が良い方向に成熟します。

そして、それを証明しているのがシャトー・ペトリュスであり、世界最高峰の赤ワインを造るシャトーであることから、この存在もより水分ストレスや乾燥ストレスが重要論を後押ししているのではないでしょうか。
                   
                    

水はけだけが、重要なのか?

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とはいえ、水はけの良さ(乾燥ストレス)だけに注目するのであれば、できるだけ強烈な乾燥地帯にブドウ樹を植えれば良い、ということになります。

しかし、そうとも言えないのが難しいところ。

近年、話題となっているのがアブシジン酸と呼ばれる植物ホルモンなのですが、それが土壌が乾燥状態にあると、樹冠より実の方に栄養素を送るためのシグナルを届け、樹冠の成長より実の成熟を促すと言われています。

ワインの品質に重要な役割を担っているものなのですが、葉が気孔を閉じてしまうため、極端な乾燥状態の場合、光合成の作用に悪影響を及ぼし、最終的に葉が落ちてしまうようです。

さらに赤ワインの場合、ほど良い乾燥状態であれば可溶性固形物(糖度やアミノ酸、有機酸などの成分)が増加しますが、極度の乾燥ストレスが続くとそれらが減少してしまうことが分かっています。

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また、水はけといえば石灰質土壌を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、土に石灰岩を多く含みすぎるのも問題。

石灰質土壌は保水性があり、水はけが良いのですが、極端に石灰岩を多く含む土壌の場合、交換性カルシウムが多く、リン酸イオンは難溶性のリン酸カルシウムとして固定されるため、鉄や亜鉛が供給されにくくブドウ樹が吸収しにくくなります。

鉄は葉が緑色の色素を作るために不可欠なため、不足すれば光合成に支障をきたします。

このように、水はけによる水分ストレス、乾燥ストレスが重要なのは間違い無さそうですが、土壌の科学的性質もブドウ栽培で無視できないポイントです。

事実、これを指摘する研究者も多くいるようです。
                    
                      

白ワインの場合は?

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さらに、土壌の水分ストレスや乾燥ストレスの条件は赤ワインと白ワインによっても違うようです。

例えば、ブルゴーニュ地方のグラン・クリュ(赤ワイン)には前述したスメクタイト粘土が多いようですが、白ワインの場合は逆に膨張性の少ないカオリナイト粘土が向いていると言われています。

ボルドーのアントル・ドゥ・メール地区も乾燥ストレスが弱いのですが、ソーヴィニヨン・ブランには向いています。

また、スイスで白ブドウ品種(ドラル種)を対象に、いくつかのブドウ畑で窒素含有量に応じたワインのできばえを調べた研究があるようですが、低窒素であればあるほど低品質のワインができたそうです。

そのワインは可溶性固形物が多いだけでなく、リンゴ酸も低くpHも高め。白ワインを造る上では問題ですが、赤ワインにとっては良い条件の可能性があり、窒素量も土壌に関係してくることは間違いなさそうです。

また、極端なカリウム量、成熟期の夜温があまりにも偏っているなどした場合、低フレーバー・アロマ、低フェノール・アントシアニン、低糖分、酸不足になることが分かっており、水分だけが全てを決めているわけではないこともわかります。

“テロワールとは、水はけの良さを左右しているだけ”と言うのもアリですが、まだまだ土壌の科学組成とブドウの関係性は研究途中と言えるのではないでしょうか。
                     
                  

知れば知るほどハマっていく土壌の話

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水はけや保水性がワイン用ブドウを栽培する場合、重要であるということをお伝えしました。しかし、土壌の化学成分が100%関係無いとも言い切れないところが、ワインの面白いところです。

国や産地、品種や銘柄、醸造法テクニック、風味の特徴だけでなく土壌も気にしないといけないのがワインの大変なところですが、探求しがいのあるテーマということは間違いありません。

次回も、土壌関連の話題を提供しようと思いますので、ぜひネタとして活用してください。


【ご参考】

テロワールの話 - きた産業


土壌の基礎知識


農業技術辞典 NAROPEDIA


C.van Leeuwen and G. Seguin, J. Wine Res, 17: 1-10

ジェイミー・グッ ド「ワインの科学」河出書房新社
                
                

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